基本的に文芸書が好きです。
小学生の頃の引越し先の隣が図書館だったことから僕の読書生活が始まりました。
読書好きから今の仕事についたのですが、仕事柄ビジネス書も読まなくてはなりません。
ビジネス書、特に成功本と呼ばれるような本はどれも同じことが書いてあり、どうにもピンときません。
トイレ掃除をしろとか・・後付けだろ!と思うようなことばっかりの成功本、読んでられるか!と思いつつ・・。

つーわけで『ビジネス書大バカ事典』を読んだ。

ビジネス書大バカ事典ビジネス書大バカ事典
勢古 浩爾

三五館 2010-05-21
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おもしろかった。ビジネス書?で久々にきちんと読みました。
ビジネス書の書評。文章が非常に魅力的でさくさく読んでいけます。基本的に俺は何かしらを批判している本が好きなんだなと思いました。
ビジネス書には2種類ある。まともなビジネス書と、いかがわしいビジネス書「もどき」である。したがって著者にも2種類いることになる。まともな作家と、「もどき」作家である。(p1)
もどき本の厳密な定義なんてあるはずもないが、著者は大雑把に言えば「誰でも成功する」「誰でも金も持ちになれる」「だれでも幸福になる」・・ということを謳った本。

というのが、著者の定義。
勝間和代と苫米地英人、この二人が「もどき」作家の東西の横綱といっていい。そのあと大関に神田昌典と石井裕之、関脇に本田健と本田直之が加わる。

とにかくおもしろいんです。基本的にはビジネス書にいちゃもんをつけていくのですが、
「成功」には「法則」など絶対に存在しないからである。ルールも脳も宇宙も習慣も潜在意識も関係ない。「成功」には再現性など全く無いのである。それに加えて、読者一人一人が置かれている現在の環境も性格も時代も全部ちがう。「だれでも成功する」など無茶以外のなにものでもないのである。(236)

たまらない。「絶対」とか「全員」とか「誰でも」とか、そんなわけねーだろ!ということ。
子供「お母さん、みんな携帯電話持ってるから僕にも買って」
親「みんなって本当にみんな?」
子供「持ってない人もいるけど・・・」
みたいな小学生の時によくあったと思うのですが、この著者の批判はまさにこの時の親の立場。
「本当に絶対なの?」
「本当にみんななの?」
って感じで。「誰でも成功する」って書いてあるからって読者も本気で「誰でも成功する」とは思ってねーよと。
それでも、この本に惹かれるのは、
わたしは「成功」というフレームをまったく信用していない。・・・・・それに「成功」など、ふつうの人間にとっては人生の中心的目標にはなりえないものである。(P33)
まず最初にここではっきりさせておきたいことは、世の中に本当の「成功本」などありえないということである。(P22)
「成功本」でもビジネス書「もどき」でもいいが、その著者たちにいいたいことは、こうである。前にも何かで大金を稼いだ何とか君にも言ったことだが、ぜひ著者たちには、もう一回あなたたちの「非常識な成功法則」でも「年収10倍アップ勉強法」でも「大富豪の教え」でもなんでもいいから、そのすべてを駆使して、もう一回「成功」してみせてくれ、ということである。あなたの仮想設定は23歳としよう。派遣労働者で年収は手取りで190万円である。むろん、こんなことは現実的ではないから、シミュレーションでもいい。ばんばん「レバレッジ」もかけて、「こうすれば、うん、やはり嫌でも成功するよ」というところを示してもらいたい。どうだろう?もう一回いけますか?(236)

とかにすごく共感できるから。
僕がビジネス書を読んでいて、常に違和感を覚えるのは、成功本の著者の主張が結局は「金」基準であること。それ自体が間違ってると思っているわけでは全くないけれど、その精査をきちんとしているのかということ。
効率化効率化の先に何があるのか・・・と常に思ってしまいます。非効率の中に幸せがあることもあると思うんですよね。目的を持って読書せよ!みたいなのって読書の本質と違うと思うんですよ。読後「あーおもろかった」って思って、次の日に内容覚えてないって言うのが本当の読書だと思う。
もちろん、ビジネス書はそんな読み方は意味ないということもわかってる。なんだけど、なんかすっきりしないんですよねービジネス書。そのうやむやとした気持ちがこの本を読むとすっきりはれます!とまでは言わずとも、わかるーってなるはず。
そんな著者のオススメは経営者の自伝だとのことです。ナポレオン・ヒル『思考は現実化する』は「もどき本」のなかのピンの作品。それ以上が『7つの習慣』ともありました。
いい大人が「夢は必ずかなう」なんて子どもみたいな幼稚なウソついてるので

たまらん。つっこみが子供か!というものばかりなのですが、それでもきちんとした文章で、それをやられると説得力満点。
おすすめです。


2章では本田健の著作の一貫性の無さを指摘し、
・・・・ゴミ清掃車の人にも感謝できれば「ゴミだしも楽しい作業になります」なんてことをシレっという人間は、そりゃあんたとあんたの家族はよかったね、ということでしかなく、そういう人間の言葉はやはりなにをいってもウソくさいのである。(P50)
それでさんざん、「お金持ち」になるための仕組みだの方法だのステップだのメンタリティだのといっていたくせに、最後の最後になって、ここでもいい人の帳尻合わせをするのである。偽者めが。「成功したいと考える若者の多くは外面的なことしか見ていません。それは、お金だったり、会社の規模だったり、社会的な地位や名声だったりでしょう。そういうものは成功のシンボルであって、成功そのものではありません。/成功した状態とは、自分とまわりのことを深く愛し、みち足りた状態なのです」。だったら「億万長者」になるアドバイスなんかするなよ。(P53)
とのこと。確かに。
・・なぜ成功者たちはビジネス書「もどき」を書くのだろうか?と問うべきであろう。実際、かれらはなんの用があって、「もどき本」を書くのだろうか。あなたに「成功」してもらいたい、「金持ち」になってもらいたい、「脳力」がアップしてほしい、なんて思うわけがないのである。
目標を書いた紙を見てニタニタしろとか、火の玉を作るとか、自立する女になるには600万円の年収が必要だとか、便所掃除をしろとか、レバレッジをかけろとか、とても本気だとは思えないのである。いったいかれらはなにをどうしたいのか?(286)・・・・・ということで、われわれは現在の仕事をがんばればいいのである。どうすればもっと仕事ができるのか、どうすればもっと業績が上がるのか、そのなかで自分はどう成長していくのか、そのことだけを考えればいい。「成功」がその後からついてくればきたでよし、ついてこなくても、そんなものはほっとけばいいのである。(287)