いつも男同士でいる時に下ネタとギャンブル話をできる、男に人気のある男がいた。

この男が、女性と話すときはグルメや旅行の話をうまいことしているのを見たときの裏切られた感。

うん、この男は何も悪くない。ただ、僕は女性とやたらうまく話しているお前を見たくはなかった。


余計な現代器具を使った練習を否定し、ストイックな精神的なトレーニングをしていた格闘家がいた。

その格闘家がデジタルなトレーニングを始めていた時の裏切られた感。

もちろん何も悪くない。プロなわけで、むしろ柔軟性があると褒められるべきことだろう。ただ、僕は朝裸足で掃除するお前が好きだった。


そう、単になんとなく不器用なにおい漂う人が好きなだけなのだ。


ラジオで過激発言してておもろい芸人が、テレビでも旨く立ち回って評価されているのを見ている時のなんか残念な感じ。
セクシー女優が2作目でもうその業界の人になっている時の残念な感じ。
我が道を行く感を漂わすアイドルがブログで今日の夕食をアップしている時の残念な感じ。

わかるんだ。みんなプロで腕があって、いろいろ考えててやってるって。
それでも、テレビに合わせてほしくなかったし、もう少しの間新鮮であってほしかったし、食事の写真撮るなんてバカがやることでしょって言ってほしいんだ。

俳優のいう「私人見知りで・・」みたいな作られた不器用さじゃなくて、全く得にならないなんとなくの不器用さを持つ人が好きなんだ。

つーわけで『発光地帯』『りぼんにお願い』を読んだ。
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芥川賞&中原中也賞を取っている川上未映子氏のエッセイ。

読売新聞のウェブサイトで連載された『発光地帯』

雑誌Hanakoで連載された『りぼんにお願い』

詩集も出している作家の腕を堪能せよ?・・・という本。



そこまでエッセイを読んでいるわけではないですが、
エッセイには内容のセンス勝負寄りのものと、言葉選び、文体、文章のリズムで勝負寄りのものと2種類あると思っています。

さて川上エッセイ。
まず『発光地帯』を読みました。
完全に後者よりのタイプの本で、もうなんかすごいです。合う合わないがはっきり出るだろうタイプの文章で、いわゆる独特というものです。
ただ、芸術作品によくある「(これ、いいって言っとかないとわかってない奴って思われるな)すごくいい!!」と言わせてしまう力に溢れています。
僕にはとても心地いい文章でした。もちろんそう言っておかないと、というのは抜きにして。
なんというか、クセになる文章です。
最初の読みづらさ、何をしたいのかわからない感じも、読み進めていくうちに心地よくなっていくという、まさに著者の文章にのまれていってしまいます。
今日はうんざりの朝から雨で、白く世界が膨らんでいくのをまじ見てる。(P28)
先週の出来事は人に会ったことが多数でした。(P33)
という語順や、
好きなことを仕事にできていいとか悪いとか、考え方は色々あって、わたしはそういうの、いいも悪いもないとは思うけれど、しかし生活の基本的不安とはまた違う層で、常に表現の不安はべったりとしてあって常に気持ちの一部が濃い灰色であるのだった。(P26)
と1文がやたら長かったり、
最初はいいのかこれで、と思っていたのに、中盤過ぎには何故か何も気にならず心地よいという不思議。
本書がイヤだという人には、根本的に文章が合わない人か、この文章にのまれる前に読むのをやめてしまった人の2パターンがありそうです。

これを読んで思ったのです、僕は。
この人は、きっと著者は不器用なタイプに違いない、と。


んで、積読本の中に『りぼんにお願い』があったので、『発光地帯』でのっている勢いそのままに完読。
女の子をめぐる状況―というとなんだかちょっと大げさだけど、でもそうとしか言いようのない空間があるのもまた事実。うれしかったり楽しかったりすることも多いけど、でも、女の子であることで常に感じていなければならないしんどさや悔しさ、やるせなさもやっぱり多くて(P148)
あとがきからの抜粋なんですが、大衆向けのいわゆる普通のエッセイだったのです。
あ、両方いけるんだ、と。
化粧の話、恋愛の話、出産の話、浮気の話など女性に共感されそうな話題を若干の独特さは残しつつも非常に読みやすい文章で著せる人なんだ、と。
プロの作家の人であれば当然なんでしょうが、すごいなあ、と。でもなんか残念な気もするなと。


著者は?

川上 未映子(かわかみ みえこ、1976年8月29日 - )は、日本の小説家、詩人、ミュージシャン、女優。音楽活動時は未映子(みえこ)名義も使用する。血液型はB型。(wikipedia)

川上未映子の純粋悲性批判というブログありです。
kawakamimiekoblog


個人的には、昔『情熱大陸』に出演していた際の印象が強く、すごく芸術肌というか生み出す人という印象です。もう一回情熱大陸見たいなあ。

まとめ(発光地帯)

川上未映子という作家の文章が合うか合わないかはあると思いますが、ひとまず中盤過ぎまでは読んでみるべきかと思います。

大人の全ての人におススメです。新幹線で移動中に読むとかいいかもしれません。

新幹線に四時間も乗って。乗るだけで運ばれてゆくのです。掌編ならひとつ書けそうな時間だけれど、眠ってしまえばすぐですね。たとえば美容院などに行ったとき、パーマや毛染めをするときに二時間半かかったとするでしょう。そんなとき「わたしは大阪に着いていた」とか思うのです。そういう時間の迫りかた。ときどき距離が、顔をだす。(P45)

本書より

『発光地帯』
そうでなくてもわたしたち、いつか必ず離れてしまうときはやってくるのだったからったいま大事に思うのならあれこれあぐねて離れてしまうことはない、世界なんかわたしとあなたでやめればいい、そしてもう一度、わたしとあなたでつくればいい。(P32)

熱い食べ物はそれだけでおいしかったりする。そして、おそば屋などに入って、汗をかいてたり、早そうだからという理由でついつい「ざる」とか「もり」とか頼んでしまうのだけれども、最近はかならず後悔することになる。隣の人の食べている、湯気のふわりとした温かいそばを見てると、「ああ、わたしも、あれ以外の選択はなかったはずなのに」とがっかりしてしまう。冷たいものより、温かいものがいいに決まってるのに、と無根拠がむくむくたちのぼる。(P39)

山口県に行くのは中学校の修学旅行以来で、そのときとおなじように秋芳洞にでかけた。当然だけど、まるで覚えていなかったけれど、まるで変っていなかった。(P47)

この一週間、二週間で、体重計には乗っていないけれど、体が重くなったので、なんでかなと思えばたくさん食べているからだった。口からしかカロリーは入らないので、原因はひとつという簡潔さ。(P102)

『りぼんにお願い』
整形前々夜
わたしは何にせよ現状を乗り越えるべく戦う、という姿勢をいずれにせよ好むところがあるので、このアンチエイチング―しかも、敗北が初めから宿命づけられている戦い、は基本的に支持しているのだった。(P16)

ところで「悲しい」は、表現世界においては全方位に、じゅうぶんすぎるほどの権威と実践を与えられてはいるけれど「さみしい」はそういう観点からも、なんだか二流な扱いを受けてる気がする。(P83)