先日2014年3月〜4月にかけて、第3回将棋電王戦があった。

人間vs.コンピュータ。

結果はコンピュータの4勝1敗。

タイトル保持者が出場していないとはいえ、
1勝3敗1分けだった第2回より人間有利のルールになった上での敗戦は現段階でプロ棋士と対等以上に戦えるレベルにコンピュータがあると断定していいものだと思う。
個人的には、コンピュータに負けたとしても、プロ棋士への見方は全く変わらないので、どちらが強いかはどちらでもいい。

そんなことより、第3回のニコニコ動画総視聴者数は210万人を超える(第2回は200万人)ほどの注目度で、将棋人気がこんなにあったことに驚いた。

16歳の頃一時将棋道場に通ったことがあるのだが、
そこにいる半分はいわゆるおじいちゃんだった。
そのあたりの年齢の人がニコニコ動画を見たりはしないだろうから、
それを踏まえると、実質将棋人口ってすごいことになるのではないかと、思ってみたり。

とにもかくにも、イベント主催者は素晴らしいと思う。
ゲームとして将棋より面白いものはないと思っている。どんな形であれ、注目を集めるイベントをがんがんやってほしい。
つーか、金になるうちにタイトル保持者がコンピュータとやって、まだトッププロはコンピュータより強いんだよ的なのはみせといた方がいいように思うんだけどね。どうなんだろう。まあいろいろしがらみあるんでしょうが。

どちらにせよ、コンピュータの成長スピードはおそろしいなあと、しみじみ思う。

ここ数年でどれだけ強くなるねん。ほんと。

つーわけで『閃け!棋士に挑むコンピュータ』を読んだ。
閃け!棋士に挑むコンピュータ閃け!棋士に挑むコンピュータ
田中 徹 難波 美帆

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2010年に行なわれた、女流トップ棋士清水市代VS.コンピューター将棋システム「あから2010」の模様を解説、と人口知能の話を少し・・・という本。



清水市代はすごい棋士

本書は、清水vs.コンピュータ将棋の対戦解説なのですが、読み切って思うのは、清水市代プロ&渡邊明プロがすごい棋士で、米長邦雄将棋連盟会長が本当に将棋の普及を考えていたといことです。
清水プロは当時清水女流は女流トップクラス、今もまだ上位を走り、タイトル戦に絡む活躍を見せている棋士で2010年段階でコンピュータと対戦するメリットがほとんどないんです。
NHKのクイズ番組に出演したりと、女流棋士としては知名度は十分で、出場することでのさらなる知名度アップは必要ないように思います。
また、コンピュータの棋力が向上しているのはプロ棋士以外との対局結果から明白で、プロ対棋士の真剣勝負で初敗戦になる可能性も高かったのです。
2005年「公の場で許可なく将棋ソフトと対局することを禁じる」という通達が出てから、プロがコンピュータと戦ったのは2007年の渡邊プロのみ。ただ、2007年段階ではどうもまだ人間に大幅に分があるとみられていたようです。その中で知名度&実力充分の渡邊プロが指名されたのでしょう。もちろんこの段階で挑戦を受けた渡邊プロもすごいですが。
そういう意味で、米長会長から指名されたとはいえ、このタイミングで勝負を受けるメリットは清水女流プロにはなかったように思うのです。

そういうものがあってかどうか知りませんが、本書はじめにはこのような文面が。
この本は、将棋という日本の伝統的なゲームをめぐって、人間の「かしこさ」を探求する研究者と、そのプロジェクトに協力した一人の女流棋士の姿について、取材して書き下ろした。(P2)
本書内には清水女流プロのインタビューもあるのですが、本人もプロジェクトへの参加者との意識があるようです。かっこいい。


米長邦雄将棋連盟会長がかっこいい

2012年に逝去のニュースがあったときは本当にショックでした。歳老いてもなお、将棋界のことを考えていた棋士でした。twitterでも話題作ってましたし。
僕が将棋をやりはじめて最初に読んだのが米長会長の書籍『運を育てる』で、それによって将棋にハマったといっても過言ではありません。将棋棋士がどんだけ魅力的かがすごくわかる本です。読みたくなってきた(笑)
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米長会長がかっこいいのは将棋の普及を常に考えていたことです。
「私たちはいい将棋を指して、いい棋譜を残すことを考えるだけです」みたいな人が多いように感じる中(実際はそんなことないと思います。イメージです。)それだけじゃダメなんだということに早くから気づいていた方なのだと思います。
電王戦も米長会長あってのものといってもいいですし、言動が常にメディアを意識している感じがします。
日本将棋連盟のウェブサイト、米長の「会長挨拶」は、短文にして、明快だ。
「私は第一に普及、第二に普及と考えております。(P67)
清水vs.コンピュータ戦のコンピュータ側からの挑戦状の件もなんとなく面白かったので、引用。
二〇一〇年四月二日。東京・千駄ヶ谷にある東京将棋会館で記者会見が開かれ、情報処理学会会長の白鳥則郎(東北大学教授)から、日本将棋連盟会長の米長邦雄に挑戦状が手渡された。

コンピュータ将棋を作り始めてから苦節三十五年
修行に継ぐ修行研鑽に継ぐ研鑽を行い
漸くにして名人に伍する力ありと情報処理学会が
認める迄に強いコンピュータ将棋を完成致しました
茲に社団法人日本将棋連盟殿に挑戦するものであります

米長は、こう応えた。

挑戦状確かに承りました
いい度胸をしていると
その不遜な態度に感服仕った次第
女流棋士会も誕生して三十五年
奇しくも同年であります
今回は初戦相手を女流棋界の
第一人者清水市代に決定しました
全ての対局運営は女流棋士会ファンクラブ
駒桜が執り行うように委嘱いたします(P21)



まとめ

本書の柱は、

人間VS.コンピュータのこれまでと、これからを清水戦をもとにまとめてみました。

というもの、と読みました。

清水&米長棋士のことしかここには書きませんでしたが、本書はコンピュータ将棋のこれまでと、人口知能についても大きく割かれています。ただ、その辺は正直、将棋ファン以外はあまり楽しめないように感じます。
完全情報ゲームである将棋には理論上、必勝法もしくは最善手が存在することがわかっていると言われても将棋ファン以外はへーで終わっちゃいそうで・・。

電王戦で将棋ファンになった人におススメです。2010年の段階ではまだ清水女流も持ち時間さえあれば勝てているであろうというレベルのコンピュータが、2014年には男性プロをも持ち時間がそこそこある中で勝利する。。コンピュータの進化を感じられることと思います。


本書より

コンピュータ将棋の開発は、人工知能研究の一分野としてスタートした。一九七〇年代のことだった。(P18)

清水と対する「あから2010」は現在コンピュータ将棋で最強と言われている四つのソフトが協力して新たに作るシステムで、ハードウェアは東京大学にあるコンピュータ169台を接続する。

場合の数(ゲームの始まりから終わりまで、現れうるすべての局面の数)
将棋10の226乗
オセロ10の60乗
チェス10の120乗
囲碁10の360乗

2005年10月ついに将棋連盟は「公の場で許可なく将棋ソフトと対局することを禁じる」との通達をプロ棋士に出した。違反すれば連盟からの除名もありうるとする厳しい内容だった。

「トッププロ棋士に勝つためのコンピュータ将棋プロジェクト」の松原は二〇一〇年三月、情報処理学会で、「二〇一二年にトッププロに勝つという目標が現実的なものになってきた」と述べた。(P42)

清水は、忙しいスケジュールのなか、時間を割いて、自宅で父親と一緒に地元の子どもたち向けの将棋教室「ショウギ・キッズ・ハウス」を運営している。将棋を鍛えることだけが目的ではなく、「学校で学べないことを勉強する寺子屋みたいな教室。将棋は好きじゃない子どももいる」という。
「みなで、漢詩を詠ったり、宇宙のことについて勉強したり。家庭菜園もやっています」
何か簡単には教えられない秘密をいとおしむように、清水は教室のことを話す。(P68)

「プロジェクト」は、事前に日本将棋連盟から提供された清水の公式戦棋譜を分析し、「清水先生の苦手な形を選ぼう」と作戦をたてていた。(P102)

黒崎によれば、心というのは関係論的に把握されるものだという。私たち人間は、外面的なことがそろうと、いとも簡単にロボットの背後に心を感じてしまう。例えばロボットの動きが、ゆっくりであったり、稚拙であったりすると「一生懸命やっている」と感じ、応援したくなる。(P202)

ハーリックは、コンピュータ・チェスの発展には四つの段階があると考えている。
第一段階は、コンピュータにチェスをプレイさせること。第二段階として人間と対局して、いい勝負ができるようにすること。第三段階として世界チャンピオンより強くなること。そして第四段階が「チェスというゲームを解き明かすことだ」という。
プレイヤー双方が最善手を尽くしたとき、チェスというゲームは先手必勝なのか、後手必勝なのか、それとも引き分けなのか、ゲーム理論に従えば、必勝法はいずれ解明される。その作業は、まだまだ途上である。(P224)