年始に毎年読んでいる本の一つに本谷有希子さんの『かみにえともじ』がある。

『かみにえともじ』を読んで、エッセイのことをふわーと考えていたら、最近すげえ惹きこまれたエッセイを読んだことを思い出した。


『QuickJapan121』での平野紗希子さんの『全然負ける気がしない』というエッセイ。
クイック・ジャパン 121クイック・ジャパン 121
バカリズム

太田出版 2015-08-12
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『浜崎あゆみが好きだと言うと笑われる。』で始まり

『私たちより少し後に生まれてしまったばっかりに、気の毒にもあゆをおばさん呼ばわりし、西野カナを歌姫と崇め「お気に入りのハイヒールは靴擦れがいつも痛いけどやっぱり今日の服にはこれしかない♪」などという陳腐な駅ビル広告の歌詞世界を心に刻まざるを得なかった年下世代には、正直全然負ける気がしない。(P187)』
で終わる浜崎あゆみ愛を語ったエッセイなのだが、これが本当に惹きこまれるものだった。
浜崎あゆみを好きでも嫌いでもない自分が惹きこまれたくらいだから、あゆファンの人にはたまらないと思う。
どこかまとまりがないように感じたし、なぜこの言葉を選んだんだと思うところもあったりもしたのに、そんなの気にならないくらい熱く、気持ちがいい内容で、浜崎あゆみファンにとにかくおススメ。
121号の特集はバカリズムなのでバカリズムファンの人もついでにこのエッセイは読んでみていいと思う。

このエッセイを書く人が他にどんな作品を書いている人なのか猛烈に興味が湧いた。

つーわけで『生まれた時からアルデンテ』を読んだ。
生まれた時からアルデンテ生まれた時からアルデンテ
平野 紗季子

平凡社 2014-04-24
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著者は?

本書の著者紹介は
『平野紗季子(ひらの・さきこ)
1991年福岡県生まれ。2014年3月慶應義塾大学法学部卒業。小学生から食日記を付け続ける生粋のごはん狂(pure foodie)。日常の食にまつわる発見と感動を綴る「.fatale」でのブログが話題となり、現在「an・an」「SPRING」で連載中。他に「BRUTUS」「ELLE a table」など雑誌・ウェブマガジンで幅広く執筆。』

QuickJapan121の著者紹介は
『フードエッセイスト。1991年生まれ。自身の食体験を綴ったブログが話題となり、現在は雑誌での連載等を中心に活動。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)がある。中学時代、あゆに心酔。6thアルバムまでのほとんどの歌詞を諳んじることができる。』

となっていました。フードエッセイストやフードブロガーという肩書のようです。

Twitter: sakiko hirano(@sakichoon)
Blog: SAKIKO HIRANO
tumblr: dusty swan picnic
instagram: sakiko hiranoさん(@sakikohirano)
仕事や人生で影響を受けた言葉は何ですか? | ブレーン 2014年12月号
平野 紗季子 | PERSON | HAKUHODO & HAKUHODO DY MEDIA PARTNERS RECRUIT 2016


読む前

平野紗季子さんのことを全く知らなかったので、Googleで検索し、amazonで本書を購入しました。
表紙は著者がどどんと出ていて、博報堂に入社しているということ。それだけ見ると通常であれば嫌な予感しかしないってやつです。
どうせおしゃれでちょっとセンスあるでしょ感を醸し出す写真を載せつつ、当たり障りのない短文を付けて、どこからも大きな批判は受けないだろう、むしろつまんねーと言うと、「おめーがセンスねーだけなんだよ?」と言われてしまうような本になってるんだろうよと。
でも、本書に限ってその手の心配は杞憂に終わることを知っているので安心です。
なんせ、Quickjapanのエッセイで西野カナファン&西野カナ世代に全面的に喧嘩を売っていた著者なのですから。


感想

予想通り素敵な本でした。

本書の柱は

食っていいよね!!

というものだと思います。

すべての幸福は食から始まり、常に食の偉人の本と共にある。粗食の日には「またしょうもないものを食ってしまった」と涙する。知らない街を歩いて、先々出会ったものを食べ続けようとする。ようは食中毒である。(略)
繊細であれ、と食は私に教えてくれる。
ただのグルメな人で終わるのか。その先に行けるのか。小さなおばあちゃんになった私が、どうなっているかわからないけど、今は、ただ、もっと味わって生きるんだ。
とはじめに食が全てだと宣言し、
味なんて時と場合でおいしく思えたりするものだ。(P23)
とうまいまずいのレベルで語ることをあっさり捨て去り、
たとえ私がAもBもない、どうしようもない食べものを好きでいたいと誓ったところで、周りが頷いてくれるわけではないのだ。もちろんそれは食に限った話ではない。ファッションそのほか趣味、生活のすべては他人の目にふれたところから、自分の理想と違った色に変色していく。
そんな窒息グルメから逃げ出したくて、私はついに一人になってしまった。ひとりでたべればいい。孤食。孤食最高。そう思うようになった。(P35)
と他人の目なんて気にしないことを示し、
「人と一緒に食べれば何でもおいしい」という人がいるけどそれは嘘だと思う。(略)人と食事をする場合、純粋に食べものと向き合うことは難しい。(P38)
と食は人と人の媒介物ではなく主役だと言ってしまう。

権力や周りの評価やその上うまいまずいにすら左右されない、そんな媚びない一冊。
ただ、1冊を通して芯となるものがちょっとないかな・・とは感じました。ブログをまとめたものだそうで、最初から書籍としてまとめられることを想定していたわけじゃないでしょうし、そもそも食エッセイで文体をみせるわけでもないので仕方ないかもしれませんが・・。

一人で食事しない、食べログの評価で今日の食事を決めちゃうそんな人におススメです。

きらいな味があれば
想像力に終わりが来ないので楽しいです。(P143)
ああ素敵。

生まれた時からアルデンテ
生まれた時からアルデンテ平野 紗季子

平凡社 2014-04-24
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貧乏サヴァラン (ちくま文庫) 毎日すること。ときどきすること。 圏外編集者 おいしいおにぎりが作れるならば。 「暮しの手帖」での日々を綴ったエッセイ集 (集英社文庫) 有元葉子とクロワッサンの ひと工夫で格段においしくなる シンプル家庭料理


本書より

何がおいしいって、
看板がおいしい。(P96)

自分の舌で味わったひとの言葉は強い。
他人の舌で味わったひとの言葉は弱い。
最近じゃ、食べものを食べる前からその食べものに異常に詳しいということが当たり前で、情報を受け取った時から食べ始めちゃってるようなもので、次際にその食事と対峙する時には答え合わせの追体験でしかないなんて、そんな不感症グルメがあふれている気がする。既視感にまみれていては心が老ける老ける。「そっち系ね」とか「なるほどね」とか、わかった気になるのはもうやめたい。(P91)