読書メーターに登録していて、数人の感想をいつも読んでいる。
『書店主フィクリーのものがたり』のレビューに、
「きみは、ある人物のすべてを知るための質問を知っているね。あなたのいちばん好きな本はなんですか?」という一文があったことを書いている人がいた。

「あなたの好きな本はなんですか?」

確かに下手に答えられない質問だ。
センスねぇなあ、読解力ねぇなあと思われる可能性を考えると、怖くて何も言えなくなる。


『TOKYO GRAFFITI4月号』の特集が、
「女子クリエイターが強烈に影響を受けた本・映画・音楽」だった。
本に映画と音楽まで足して、しかも”強烈”にという文句もついた、もはや、「あなたはセンスいいの?」という身も蓋もない質問を、センスで成立しているような職業の人に聞いてやろうというめちゃくちゃな特集といってもいいだろう。

Tokyo graffiti(トウキョウグラフィティ) 2016年 04 月号 #137 [雑誌]

自分がもし答える側のクリエーターだと想像したら、身震いする。
大衆に受けているものを取り上げたら、つまんねー奴、こんなんに影響受けるのって薄っぺらいヤツって思われそうだし、
かといってマイナーなところ選ぶと狙った奴、ツウぶってると思われそうだし、
大槻ケンヂとかみうらじゅんとか選ぶとサブカルかぶれと思われそうだし…
ああああぁあああああ。

この超難問に、デザイナーや美術家、女優、歌手などが挑んだ特集。
読んでみたい本や観たい映画がたくさんあったけれど、この手の特集はどうしても答えている人に興味がわく。
『ご近所物語』を挙げる女優の青柳文子さん、
『ミッシェル・ガン・エレファント』を挙げるデザイナーの瀬戸あゆみさん、
『芸人前夜』を挙げる総合エンターテイメント施設?の水野しずさん、
『筋肉少女帯』を挙げる現代のナードガール?緑川百々子さん、
『蒼井優の写真集』を挙げて、明日からも生きていこうという気持ちになるという感想を寄せる、シンガー柴田聡子さん
等々。
興味が湧いた人たくさんだった。

芸術感覚ゼロの自分は知らない人ばっかりだったのだが、唯一知っていたのが、
ライター小明さん。
就職してすぐ、だだっぴろい部屋に移り住んで、家具家電も何もなくてパソコン一つの部屋で、『Gyaoジョッキー』を見ていた。その時に番組をやっていたのが小明さんだった。
番組の内容は覚えてないんだけど、きれいでおもしろくて、悲観的ということだけ覚えていた。
当雑誌でも、業田良家『自虐の詩』を挙げていて、「いいねえ、一貫してるねえ」とうれしくなった。

でも、人物紹介の肩書が”母になったゾンビアイドル”。
母?ゾンビアイドル?

つーわけで『アイドル脱落日記』を読んだ。
アイドル脱落日記 ~ウェディング オブ ザ デッド~アイドル脱落日記 ~ウェディング オブ ザ デッド~
小明

講談社 2015-12-08
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ゾンビアイドルとして話題という小明によるエッセイを堪能せよ・・・という本。



ちなみに僕が最も影響を受けた本は『聖の青春』なんですが、映画化が決まって、これからこの本を挙げたら、「映画化されたから読んだんだーミーハーな奴」って思われそうで言いにくくなりましたとさ。
著者は?

本書の著者紹介では
『小明 あかり
1985年1月14日生まれ。千葉県出身。2002年、第4回ホットドッグプレス・ドリームガールズ準グランプリに選ばれ芸能界デビュー。グラビアアイドルとして空振りを続け、過度なストレスによる円形脱毛症と精神錯乱状態に悩まされる日々。ついに所属事務所を辞めてフリーアイドルとなる。軽妙な話芸と文章力でグラビア以外にも活動の幅を広げるも世間での認識はあまり広まらず。しかし近年のゾンビブームに乗り、徐々にゾンビアイドルとして話題になりつつある。』
となっています。ゾンビアイドル?というのがどういうものかまったくわからないのですが(笑)

Twitter: 小明 (AKARI)(@akarusan)さん | Twitter
Blog: 小明の秘話
Wiki: 小明 - Wikipedia

自虐満載とはいえ、容姿端麗だし、文章うまいらしいし、普通に結婚して子供もててるし、俺が女性だったら苛立ちしか覚えないような気もしたのですが、ブログ読むと一切苛立ちポイントがないステキなブログでした。

ブログはyaplogで、リンクにteacupのBBS、最新の投稿には『更新とかもう誰も待ってないとは思うんですけど、なるべく早く直します、、、』とか書いてあって、もう好感しか持てない。これはファンにならざるを得ないです。
アメブロでピカピカの毎日を見せつけるモデルさんだったりも一貫しててそれはそれでいいですが、僕はやっぱりteacupのBBSのリンクある人の方が好きです(笑)

感想

月刊少年シリウスに連載されたエッセイ。
表紙が妊娠したゾンビメイクの本人で、裏表紙は普通メイクの本人顔アップ写真、ページめくるとザ・アイドルの雰囲気の本人写真数ページ、各章最初ページにウエディングドレスを着てゾンビメイクの本人写真と、写真だけでもカオスカオス。自意識と自虐風がまぜこぜのカオス。(各回の始めのゾンビ写真が本当に怖い。これがゾンビアイドルということか…。)

映画のロケに行く前に、共演者のことを調べつくしていったのに、会話できなかったり、
共演者の悪口言ったり、
ソロ婚やったり、
プロデューサーはクソと言ったり、
終盤、人生超展開と題するエッセイで急に結婚発表&妊娠発表してみたり、
うーたまらない。

著者前作の『アイドル堕落日記』には、いい言葉言ってやろう感がプンプンだったのだんですが、今作はうまいこと言ってやろう感のない、ただただ文章で魅せる自虐おもしろエッセイでした。
誰かへの悪口というか、誰かにかみついてるときは、句点入れずに一気呵成にすごいスピード感で書かれていてひきこまれました。
でも、表紙も内容も人には勧めづらいなあ。

本書より

まず、映画の主要人物(知名度の高い芸能人、事務所に力のある俳優、地位の高いスタッフなど)がキャッキャと仲良くジョークを飛ばし合っていて、それを遠目で見ながら無言でノリ弁当を食ってるのがエキストラよ。彼らにはだいたいパイプ椅子すら用意されず、人としての扱いも受けないわ(ちなみに地べたで食べる冷えたノリ弁は屈辱にまみれたヒエラルキー最底辺の味)。そしてそういう撮影って、よく主演の女が「皆が一生懸命ひとつのものを作っている感動!」みたいなことをキラキラ語り出したりするじゃないですか。あれ本当にウザいんですけど、今回、私も役があるし台詞もある。だから、今回は私がそれをやりたい。(P46)

でも、私、本当にそれでいいの?せっかく全員の個人情報をインプットしたんでしょ?ここはシャブをうってでも参加するべきじゃないの?
一体いつまで外野でいるつもり?・・・そう考えたら、私はシャブをうつしかなかった。(P48)

私の青春時代は暗黒でした。ひきこもりで、学校に行けばいじめられ、休み時間は用もないのにトイレに行くか、机につっぷして寝たふりをするか、大して好きでもない本を繰り返し繰り返し読んで知的でクールで読書好きな自分を演出するかの三択でした。(P92)

売れないアイドルは仕事がないので、以前仕事した知人のツテなんかを使って某低予算DVDの現場アシスタントに無名で潜り込みました。
主演は私と同様たいして売れてないくせに業界風を吹かし、主役の座に君臨しているクソ生意気な若い女優●●で、心の中で死ね死ね死ねと呪詛の言葉を吐きながら挨拶し、他のスタッフにも雑に挨拶し、一番えらいプロデューサーの鈴木(仮名)にはここ一番の笑顔でご挨拶(この時の私の笑顔は主演女優賞クラス)。(P156)

明日の飯が食える最低限の仕事だけやって、深夜ラジオを聞きながら適当に寝て、昼過ぎに起きて、お腹がすいたら宅配ピザを食べて、漫画を読んで、アイドルのCDを聴いて、猫と遊んで、ジャッキー・チェンやアメコミヒーローの映画を観て、寂しくなったらまた猫と遊んでポッドキャストを寝落ちするまで聴いて、起きたらYouTubeで昭和歌謡のサーフィンして・・・ということを繰り返して過ごすこと数年。
今ではすっかりゴミだらけの部屋の中でゴミの一部になってる私が出来上がったわけですが、もう涙は出てこないし、血も止まってきたし、死にたくもない。だから、きっとこれでいいのだ。明るい空の下じゃなく、ゴミの中の方が元気に暮らせる虫もいる。きっとそれが私なんだと思う・・・。(P176)